アンティークウォッチに衝撃を与えては与えてはダメ
お客様に時計をお渡しする際、一番にお伝えしているのは、『落とさないように』ということです。先日時計を落としてしまったというお客様がいらっしゃって、他で修理されたようで、修理代金がかかってしまったとお嘆きでした。どこが壊れたのか、部品の実物をお見せすると、『なるほど~これから注意します』ととても納得されていました。百聞は一見に如かず この部品を見れば時計を落としてはいけない理由がわかります。
機械式時計の心臓部分 天真
機械式時計は細かい部品を組み合わせてできています。その中に、時計の心臓部と言われる、天真という部品があります。こちらです。↓
えっどこ?どこ~?という方、よーく目を凝らしてみてください。スマホの方は少し拡大してみましょう。掌の中央に小さな黒点がありますよね?それが天真です。人差し指に載せた状態を拡大してみました。指紋と比べてみてください。長さは2~3mm 上下の針先部分は髪の毛ほどの細さ。
100均で売っているピンセットではつかめません。
この細い部分を折ってしまうと、時計はうんともすんとも言わなくなります。今の機械式時計でしたら、交換して終わりですが、アンティークウォッチとなれば、部品がない場合、部品を作って修理します。この小さな部品を作る時間と手間、修理代金もかかり、修理技術も必要とされる部分です。この写真をご覧になっただけで、落としてはいけない理由がご理解いただけるのではないでしょうか?
アンティークウォッチを衝撃から守るバネ
この天真を衝撃から守るために、耐衝撃のバネがついています。下記の写真の矢印の部分をご覧ください。赤い部分は受石と言って、この下に天真があります。この受石がゴールドのバネによって半固定されていて、バネの弾力によって衝撃を吸収し天真が簡単に折れないようになっています。
水につけてしまってもすぐにオーバーホールすれば済みますし、リュウズ部分を折ってしまっても交換部品はあります。風防(ガラス)部分を割っても、交換可能ですが、ここだけは、なかなか大変な修理になってきます。
皆さん丁寧に扱っていただいているので、実際にこの部分の修理をしたことは数えるほど。
あまりにも長い間オーバーホールせずに使っていると、この天真の先がすり減ってきて、折れやすくなる原因にもなってきますので、やはりオーバーホールは定期的にされることをお勧めします。
このことを知っているだけでも、落とす機会はぐっと減るのではないかと思います。時計と長くつきあうための知識として頭の片隅に入れておいてください。